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2023/12/27

自己資金のみでSaaSを立ち上げて、メンバー5名でARR2億円を突破した話

こんにちは、小俣です。

クリスマスも終わって一気に年末ムードですね。
ふとこれまでの振り返りブログを書いてみたくなったので、自社サービス(SaaS)の運営スタンス、ARR 2億円を突破するまでの過程で学んだことなどを簡単にまとめました。
年末年始のお時間ある時に読んでいただけると嬉しいです。


目次
・selfree LLCとCallConnectについて
・CallConnectはハッカソンから始まった
・黒字化まで
・ARR1億、2億円を達成するまで
・失敗しながら学んだこと
・おわりに



selfree LLCとCallConnectについて

セルフリーは「愛される企業を増やす」を理念に、いわゆるスタートアップ的な成長志向ではなく、自分たちのペースで着実に成長することを志向している会社です。
経営のコントロール性の観点などから、これまで外部からの資金調達はしておらず、「ブートストラップ経営」「スモールビジネス」という表現がマッチする会社形態になっています。

また、社内のコミュニケーションコストや管理コストが高くなることを避けたいので、できるだけ少ない人数で会社を運営する方針をとっています。

そんな私たちは、2015年からクラウド電話システム「CallConnect」を開発・運営しています。
CallConnectは、企業の電話業務を効率化するのに役立つサービスで、ブラウザ・アプリ上での電話発着信はもちろん、通話録音や文字起こし、CRM連携などが可能です。

2分ほどの紹介動画があります。

 


現在、CallConnectの有料ライセンス数は3,000を突破しており、利用継続率も97%ほどを維持できています。有料ライセンス数の推移は、こんな感じです。

これまでの成長戦略は、少人数での運営を前提としているため、必然的にPLG(Product-Led Growth)となっていて、セルフサーブメインでやってきました。

ARR 2億円を突破したときの社員数は5名で、現在も引き続き5名体制を維持して、開発・運営を続けています。
メンバー構成は、私も含めて、デザイナー1名、エンジニア2名、カスタマーサポート1名の計5名という構成で、開発業務はもちろん、サポート業務もすべて社内で完結させています。勤務時間は平日10:00~18:00で、原則残業なし、週40時間以内になるように無理なく働いている状況です。


CallConnectはハッカソンから始まった

創業メンバー3人で「何かストック型の事業を作りたいよね」と話していて、そんなときに見つけたのが、KDDIウェブコミュニケーションズ主催のハッカソン「Smart Communication Award 2015」でした。
開催期間は2日間で、コミュニケーションAPIのTwilioを使うことが条件となっていました。 何か事業化するきっかけが掴めればと考え、ハッカソンへの参加を決めます。

ハッカソンでは、簡単なニーズ調査を行い、「〜にご用の方は1を」といったガイダンスを再生して、着信分岐させるIVRシステム(自動応答電話)を作りました。
従来のIVRシステムは、高価で、導入も面倒だったため、それを安価に数分で導入できるという点を売りにしました。

・ハッカソンで発表した際の製品画面(IVR設定画面)

審査の結果、優秀賞という一定の評価をいただきました。
自分たちの中にも「電話対応を効率化したい」という想いがあったので、せっかくならこれを事業化してみようという話になりました。
それから3ヶ月間で課金機能の実装などを行い、2015年7月の正式リリースに至ります。

・リリース初期のLPトップ

当時は、“自動応答電話”を打ち出していました。


黒字化するまで

実際に売り出してみたものの、リリースしてからの数ヶ月は鳴かず飛ばずでした。

この時期は、顧客獲得のために以下のような取り組みをしていました。

  • IT企業やコールセンター事業者を対象に1通1通メールを送る
  • セミナーへ登壇したり、勉強会を主催したりして情報発信する
  • ブログ記事を書く

なかなか導入企業は見つかりませんでしたが、顧客獲得に動く中で以下のようなニーズを知ることができました。

  • IVR機能は、コールセンターシステム・電話システムの一機能。電話の発着信機能をもっと手軽に導入したいニーズの方が深い。
  • 従来の電話システムだと、通話録音・通話履歴の管理ができない。できても高価。

このようなニーズを踏まえて、“クラウド電話システム”としてリニューアルすることを決めます。
IVR機能は残しつつ、ブラウザ上での電話の発着信機能や、通話録音、通話履歴の管理機能を追加し、2015年9月ごろに大幅リニューアルを終えました。

その後、メールマーケティングはあまり成果が得られず早々に終了しましたが、ネット検索からの流入やイベント経由で新規導入を増やしていくことになります。

機能開発部分では、リリース後1年間で、Salesforce、kintone、Slack、Zendesk連携などをリリースし、リリースから1年が経った頃には、60社ほどの有料契約を獲得、MRRは50万円ほどになりました。

しかし、まだまだCallConnectからの収益だけでは生活ができなかったため、創業メンバーの3人それぞれが自身の貯金を食いつぶしながら生活していました。

そんな生活を1年半ほど続けた結果、2017年1月にやっと初めての給料(15万円)を出せるようになり、なんとか黒字化まで漕ぎつけます。
起業時から“自社サービスで生計を立てること”はひとつの夢だったため、この時の感動は今でも記憶に新しいです。

ARR1億、そして2億円を突破するまで

黒字化を達成してからは、急成長というわけではないものの毎年増収増益となり、少人数を維持したまま、ARR1億円、そして2億円を突破できました。

このときの成長を支えたのが、以下のような取り組みです。

1. 会って話す
とにかく、見込み顧客、既存顧客と会って話すことに多くの時間を使いました。
これにより、顧客ニーズを深く知ることができ、自信を持ってプロダクトを磨き上げることができました。あとでわかったのは、実際に会いに行った顧客の多くは、より活用が進み、長く使い続けてくれたということです。

2. オウンドメディアで情報を発信する
カスタマーサポートをメインテーマに扱う「SUPPORT TIMES」というメディアを立ち上げました。
外部のライターさんには記事作成を依頼せず、自分たちが学んだことを記事にすることにして、立ち上げから1年半が経った頃には360記事ほどをアップしています。
これにより、コールセンター業務やカスタマーサポート業務への理解が深まっただけでなく、結果的にリード獲得のチャネルにもなりました。また、イベント取材などを通して、各社のカスタマーサポート業務における課題も把握でき、プロダクト改善のきっかけを得ることができました。

3. ユーザーミートアップを開催する
リリースから2年が経ったタイミングで、初めてのユーザーミートアップを企画しました。
導入企業数はやっと100社を超えたくらいのタイミングだったので、都内のイベント会場まで足を運んでくれるかという不安はありました。
しかし、仮に数名だったとしても、わざわざ会場まで足を運んでくれるユーザーさんがいるのであれば、直接コミュニケーションを取りたかったため、開催を決めます。 結果として、熱烈にプロダクトを推奨してくれるエバンジェリストの方々が見つかったり、事例インタビューに協力してくれる企業が見つかったりと、サービス成長のエンジンになりました。


しかし、サービスが成長し、顧客が増える一方で、少人数体制を維持するには、問い合わせ数の増加を抑える必要がありました。
これを実現するために、以下のような取り組みを継続してきました。

  • プロダクトをとにかくシンプルにする
    ユーザーが迷わない製品を作ることが何より大切です。安易に機能を追加したり、文言を追加したりしないようにし、説明がなくても自然と使い方がわかるようなUI/UXを考えることに時間を使ってきました。
    製品がシンプルであれば、ユーザーが迷う回数は減るため、顧客数の増加に比例して問い合わせ数も増えるといった事態は防ぎやすくなります。

  • ヘルプセンターなどの自己解決できる導線を拡充する
    問い合わせをゼロにすることは難しいので、困ったときには自己解決できるようにいくつかの導線を準備しました。CallConnectでは、これまでヘルプセンターの記事や動画コンテンツの拡充に注力してきました。
    ヘルプセンター:170記事ほどを公開中。
    動画:音声ナレーションに合成音声を使い、12個ほどを公開中。

結果的に、問い合わせ数をほとんど増やさずにサービスを成長させることができています。


失敗しながら学んだこと

現在は10期目に入っていて、自分たちが理想とする会社運営や働き方を体現できつつありますが、これまで失敗したことや結果に繋がらなかったことは多々あります。
それらから学んだことや、これまで意識してきたことをまとめます。

・製品をとにかくシンプルに

シンプルさを保つのは簡単ではありません。サービスを作り始めると、あれもこれもと色々な機能が必要だと考えがちです。
たしかにあれもこれも解決できるというと聞こえはよくて、色々な顧客層を取り込める気がしますが、「どんな課題を簡単に解決できるサービスなのか」が曖昧になるだけです。また、開発やサポートにも多くの人員が必要になってしまい、少人数での運営も難しくなってしまいます。

あれもこれもという考えは自分たちの首を絞めることになると知り、今後も新機能を追加するよりも、既存機能を削ること、洗練させることを意識し続けたいと考えています。

・全員がカスタマーサポート担当者

より良いサービスを届けるためには、顧客を深く理解することが重要です。
顧客は普段どんな使い方をしていて、どんなことに疑問を持つのか。これらを正確に把握できているかどうかで、機能開発やUI/UXの質は大きく変わります。

セルフリーでは割合こそ違いますが、メンバー全員がカスタマーサポート業務を担当します。サポート受付時間は平日10時から18時までで、サポートチャネルは電話とメールです。 今後もメンバー全員が顧客の声を正確に聞くことを心がけたいと思います。

・制約こそ創造性の源泉

これまで私たちは、限られた人・時間・資金の中で、自社サービスを運営してきました。 その中で感じたのは、「少ないというのは必ずしも克服しなければならない状態ではなく、喜んで受け入れてもいい状態である」ということです。

確かに資源が少ない状態では、何かしらの制約が発生します。
しかし、その制約をむやみに遠ざけたり、恐れたりする必要はありません。なぜなら、人は制約によって創造性を働かせて、物事を進展させることができるからです。資源が限られていれば、当然無駄なことに時間やお金を使うわけにはいきません。否が応でも頭を使い、本質的な物事に集中します。
今後使える資源が増えたとしても、制約は創造性の源泉だということを忘れずにいたいです。

・見せかけの目標はいらない

私たちに売上目標はありません。サービス運営の健全性を測る指標はいくつかあるものの、1年後、5年後に〇〇億円といった目標はありません。
私たちは、目の前のユーザーさんにしっかりと貢献すること、価値あるものを提供することによって、継続的に利益を出すことが重要だと考えています。

誰のための目標なのか、どういった根拠でその目標が設定されているのか。
大して意味をなさない目標を立ててしまい、何がなんでもその目標を達成することになれば、時に無理に製品を売りつけたり、解約しづらくしたりすることも良しとされてしまうかもしれません。
私たちは、大きな方向性だけ決めて進み、メンバーや顧客にとって価値のある意思決定を積み重ねていきたいと思います。

・疑ってかかる

世の中は成功者の言葉で溢れています。経営戦略や採用手法など、正攻法といえるセオリーは存在するでしょう。
しかし、それらを鵜呑みにする必要はありません。そもそも企業ごとに目指す場所、目的が違います。手法として正しかったとしても、“自分たちにとって正しいか”はわかりません。

業界の第一人者や著名人が何を言おうと、疑ってかかることが大切です。
安易に信じすぎていないか。信じるという言葉を使って、考えることを放棄していないか。自分たちにとっての正しさや成功は、自分たちで考え、自分たちで見つけるものです。
疑うことは、物事を深く理解する上で欠かせない行為であって、自分たちの目的と真摯に向き合うことだと考えています。
聞こえのいい言葉に流されないように、これからも懐疑的な見方を大切にしていきたいです。

・快適なペースで働く

経営はよくマラソンに例えられますが、特にSaaSを成長させるには時間がかかります。
だからこそ、息を止めて走るのではなく、自分が呼吸していることを意識できるくらいのペースで長く走り続けることが大切です。これはサービスの継続性を高めるためでもあり、メンバーひとり一人が“仕事以外の時間を楽しむ余裕を持つため”でもあります。
現状に甘えず、成果にこだわるのは当たり前としても、途中で力尽きて倒れないように、心身の健康を保てるちょうどいいペースを見つけなくてはいけません。成長速度や働き方を自由度高く、マイペースに色々と調整しやすいのも、自己資金でやっている良さだと感じています。

これからも快適に働ける環境を整えながら、メンバーひとり一人が仕事以外の時間にも集中しやすい“余裕のある体制”を作っていこうと思います。


おわりに

大きな成果は、日々の小さな積み重ねの結果に過ぎません。日々の小さな積み重ねを大切に、やるべきことを粛々と進め、さらなる成長を遂げていきたいと思います。

私たちは、これからも少人数で大きな成果を出すというスタンスで、自分たちらしくサービス運営を続けていきます。この記事が、私たちと同じようなやり方でサービス運営をしたいという人の参考になれば、非常に嬉しいです。

この記事は、毎年書いている周年ブログの内容を取りまとめて、再編集したものになっています。
もし過去の記事にもご興味があれば!ひとまず直近3年分を貼っておきます。
今日、起業してちょうど9年が経ちました。
今日、起業してちょうど8年が経ちました。
今日、起業してちょうど7年が経ちました。

では、みなさん、良いお年をお迎えください!